コラム『所長の眼鏡』
時速230㎞のバッティングセンター2014.06.01
あえて他社と違うことをする!というのは勇気がいるものです。
なにか突拍子もない常識破りのようなものをイメージしがちですが、言い方を変えると差別化戦略で、この考え方自体は古くからあります。
以前、このコラムでも紹介した「越後屋の現金掛け値なし」は、江戸中期、どの呉服店も掛け値・盆暮一括払いの商いであったのを、越後屋がその常識を破って正札通り現金で商品を売る商法に切り替えたのです。
では、常識を破ってまで他社と「違う」ことをする意義とは何でしょうか?
簡単に言えば、「違う」部分をお客様や社会にアピールできることです。
北九州の小倉に全国に名を轟かせているバッティングセンターがあります。
なぜ全国的に有名なのかというと、世界最速230㎞の球を投げるピッチングマシンがあるのです。
時速230㎞というのは、マシンからバッターまでわずか0.28秒、その速さに誰もが驚きます。
完成したのは2008年3月だそうですが、その年の年末に元メジャーリーガーの新庄剛志がTV番組で挑戦したことで一躍有名になります。
新庄は一瞬で「無理!!」と言って帰ろうとしていましたが、さすがはプロ、10球目ぐらいでジャストミートしていました。
しかし、そもそも他社と違うことをすると、「そんなことして本当に大丈夫か?」と心配されるものです。
リスクはつきものですが、そのリスクをとることができるかが成否の分かれ道となるのです。
この場合、速さに驚くと同時に、デッドボールの心配をしてしまいます。
球が速いだけに、「コントロールがめちゃくちゃでどこに来るかわからない」では信用が台無しです。
万が一体に当たれば大けがをさせてしまうことになります。
このリスクをとって「絶対安全」を謳えるようにしなければ、世界最速の看板を掲げることはできないのです。
このバッティングセンターは、創業以来、コントロールの調整にこだわり続け、常にストライクゾーンに投げられる技術を磨いてこられました。
この技術があったからこそ、マシンメーカーが途中で手を引いても独自でマシンを改良し続け、230㎞という驚異のスピードを出すことができたのです。
全国から訪れた人は数千人にのぼるが、死球はゼロ。
全国に「挑戦者」という需要が数多くいることで、この会社は「空振り」にならなかったのです。
これはお笑いの世界でいえば「つかみ」のようなもの。
つかみがよくても単なる「一発芸人」で終わってしまえば意味がありません。
つまり、他社がやらないような奇抜なことをして一時的にお客様の心をつかむことができたとしても、それを繋ぎ止めていくためのものがなければ、「息の長い芸人」になることはできないのです。
問題はこの「つかみ」をどうやって見つけるかです。
このバッティングセンターは、2005年にクルーン投手(当時横浜ベイスターズ)が日本最速の161㎞を投げたことがきっかけだそうですが、何がヒントになるか分かりません。
思わぬところからアイデアが転がり込んでくるかもしれないので、私も久しぶりに日頃のストレス発散を兼ねて、まずは近所のバッティングセンターに行ってみます。笑