コラム『所長の眼鏡』

いい人タイプの上司が部下の能力を殺す2015.11.01

 毎年「理想の上司」という調査が話題を呼びます。 学校法人産業能率大学が新入社員を対象に実施しているもので、今年は錦織圭を育てた松岡修造が第1位、昨年は「倍返し」で話題になった堺雅人でした。 毎年上位に名を連ねるのが池上彰氏イチロー、その昔、星野仙一も1位になっています。
さて、これこそが理想の上司だという条件は何なのでしょうか。
クリスはシリコンバレーに本社を構える大手テクノロジー企業に勤務し、支援を惜しまない好意的なマネージャーの下で長年働いていました。 実際、この上司はクリスのことを絶賛し、業績評価では最高の評価を与え、自由に仕事をさせ、一切管理をしませんでした。 クリス曰く「とんでもなくいい人」だったのです。 これこそが理想の上司だと思われるでしょうか。 この会社に20年以上勤めてきたこの上司は、組織の中で生き延びる術を学んでおり、あまり波風を立てず、問題を起こさない。 自らのポジションを守るための政治的な駆け引きには長けていたが、それは自分の評価を高めるほどのものではなかった。 そして徐々に政治的影響力を失い、あげく、彼のチームはかつての規模から大幅に縮小されたのです。 上司の評判は配下のチームメンバーにも負の作用をもたらし、クリスのキャリアにも甚大な影響を与え、何度も約束されていた昇進が3回も見送られたのです。 この問題が生じたのは、上司が何かをやらかしたわけではなく、上司が何もやらなかったことが原因なのです。
アメリカでアップル、シスコ、HP、IBM、インテル、マイクロソフト、ノーベル、シマンテックを含む100社以上の1000人のマネージャーからの聞き取り調査で、キャリアの中で「最高の仕事を成しえるために望ましくない上司」と指摘したのは、当然約半数が「行き過ぎた管理を行う独裁的なマネージャー」で、なんと、残りの半数は「いい人だが弱いマネージャー」という結果でした。
これは、行動を起こそうという部下の欲求を中和してしまい、あれこれ文句を言っていた部下たちは、自分たちが何にそれほど不満を持っていたのかと首をかしげたくなる。 その結果、チームの誰もが「並」であると認識され、組織再編の過程で全員が辞めさせられるのです。
このような、いい人だが存在意義のないマネージャーは、数十年にもわたり野放しにされたまま生き延びることができます。 四六時中怒鳴っている支配的な上司は、少なくともその存在が知れ渡ります。 部下は、はっきりと苦痛を感じて不平を言いますが、これに対し、中和剤の効果を及ぼす「いい人上司」がもたらす苦痛は慢性的であり、ゆっくりと少しずつ与えられるのです。 上司4
 これは、ありふれているのに気づかない問題です。 リーダーシップの専門家たちは、過剰管理の問題を強調する一方で、過小管理については十分な注意喚起をしてこなかったのです。 このようなマネージャーは、「ええ、私は部下を抑圧し、管理するのは好きではありません」と言うかもしれません。 権限移譲やサポートについて語るかもしれせん。 しかしその間に、部下のキャリア展望がゆっくりと下り坂を辿ってしまうのです。
これは当然経営者にも同じことが言えます。 社員を厳しく指導し、成長できる指導と環境づくりが重要です。