コラム『所長の眼鏡』
坂の上の雲2009.12.01
ついにデフレ経済へと突入し、ジーンズが1000円以下という現実に驚きを隠せません。
にもかかわらず、政治はというと経済対策そっちのけで、相変わらず「事業仕分け」というパフォーマンス合戦を繰り返し、今まで国民が知りえなかった予算内部を公開したと民主党は誇らしげです。
私は「そんなこと恩着せがましく言われても…」と思ってしまいます。
昔から国民が政治に関心がある時代は混乱の世の中なのです。
その混乱を治めるのが政治だということを、政治家自身は理解しているのでしょうか…。
最近本屋に行くと、ビジネス書よりも小説の多さに目を奪われます。
なかでも、司馬遼太郎と山崎豊子はスゴイです!
山崎豊子さんは『白い巨塔』で有名ですが、最近『沈まぬ太陽』が映画化され、『不毛地帯』はドラマ化されて話題を呼んでいます。
同じく話題を呼んでいるのが、司馬遼太郎です。
先日観られた方も多いと思いますが、3年間にわたって放送されるNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』がついにスタートしました!
さらに、来年の大河ドラマは、あの福山雅治演じる坂本龍馬ということで、本屋には司馬遼太郎の『坂の上の雲』と『竜馬がゆく』がうず高く積まれています。
私も『坂の上の雲』は一度読みましたので、今回の放送はとても楽しみにしていました。『竜馬がゆく』はまだ読んでいなかったので、これを機会に今慌てて読んでいるところです(^^;)
『坂の上の雲』は、司馬遼太郎が10年の歳月をかけ、明治という時代に立ち向かった青春群像を渾身の力で書き上げた壮大な物語です。
発行部数は2000万部を超え、多くの日本人の心を動かした彼の代表作でもあります。
さて、この長編小説が完結したのが昭和47年。
それ以来、何度となく映画やテレビの映像化の話が持ち込まれましたが、司馬遼太郎はこの作品だけは映像化を許さなかったそうです。
この作品は日本の近代化に取り組んだ明治の人々を描いた小説で、決して日露戦争や日本海海戦だけを取り上げたものではないのです。
しかし、テレビ番組にしてしまうと、どうしても日露戦争の戦闘シーンばかりが強調され、彼が表現しようと思っていたものが誤解されてしまう恐れがあったからです。
たしかに、秋山兄弟が陸軍と海軍に分かれ、兄好古は当時世界最強といわれたコサック騎兵と互角に戦い、弟真之はバルチック艦隊を壊滅させ日露戦争を勝利に導く様は痛快です。
しかし、それよりも戦争という状況下、軍隊という組織の中で日本とロシアの数多くのリーダーのとった行動、敵と味方が交錯する心理描写、約1000人の登場人物のそれぞれの人生は、現代の企業社会が抱える問題や組織の運営に読み替えられる部分が多いため、とても感情移入しやすく、心を揺さぶられます。
栃木県佐野の戦車部隊で敗戦を迎えようとしていた司馬遼太郎は、
避難してくる人々をひき殺して戦車を進めよという隊長の言葉を聞き、
「国民を守るべき軍隊が国民をひき殺して行けという。なぜ日本という国はこんな情けない国になってしまったのだろうか」
と想い、この小説を志したそうです。
大阪が生んだ司馬遼太郎が40歳代のすべてを賭けたこの小説は、今の日本にも大きなヒントを与えてくれる作品です。