コラム『所長の眼鏡』

缶詰はハンマーで開ける2010.12.01

 

架空の考古学者であるインディアナ・ジョーンズを主人公とした冒険を描く『インディ・ジョーンズ』というハリウッド映画があります。

その映画の中に、ある有名なシーンがあります。

主人公のジョーンズと、悪役のアラブ人が1対1で決闘する場面。

アラブ人は剣を振り回し、ジリジリとジョーンズを威嚇します。

その器用に剣を振り回すシーンは、アラブ人がかなり腕の立つ刺客であることを物語っています。

その傍らには、心配そうに見守る観衆たち…。

まともに戦っていては、ジョーンズには到底勝ち目はありません。

しかし、そこでジョーンズは、面倒くさそうにホルスターに収めていたピストルを取り出し、

「ズドン!」と一発。

あっけなく、一瞬で勝利を収めたのです。

まさか、悪役のアラブ人も、決闘を見守っていた観衆も、ジョーンズがピストルを使うなど予想もしていなかったはずです。

剣には剣で立ち向かい、手に汗握る一進一退の攻防が始まることを誰もが予想していたのです。

しかし、ジョーンズはピストルという反則の武器を使って、一瞬にしてあっけなく勝利を収めたのです。


どの業界にも社会的な常識が存在します。

今の例で言えば、「剣には剣で挑む」という常識です。

時代劇の大好きな我々日本人にとっては、ごく当たり前のことです。

しかし、時にこの常識が邪魔をすることがあり、トンネルの中を見渡すような狭い視野では、限られた答えしか見つけ出すことはできません。

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例えば、缶詰を開けるときに皆さんどうされますか?

…もちろん、缶切りを使います。

しかし、缶切りが発明されたのは、実は缶詰が発明されてから50年も後のことなのです。

昔の缶詰には「ハンマーや斧で開けて下さい」という注意書きが本当に書かれていたそうです。


もともと缶詰は、ナポレオンが、軍艦などで遠征中の兵士が栄養失調による士気低下を危惧し、兵士向けの携帯食料としてアイデアを募ったのが始まりだといわれています。

今日のようなブリキ缶は、1810年にイギリスのデュラントによって発明されました。

デュラントは、日本の「茶筒」をヒントに缶詰を作ったそうです。当時は開ける方法がなかったのですが、それでも多くの人は不便だとは思わずに、缶詰をハンマーで叩いたり、斧で叩き割ったり、時にはライフル銃をぶっ放して無理やり開けたとか(笑)


今となっては信じられない話しですが、当時は「缶詰はハンマーで開ける」という常識を持っていたのは事実です。

ライト兄弟が空を飛んでから、人類が月に行くまで、たった66年しか経っていません。

それを考えると、缶詰ができてから缶切りができるまでの50年間というのは、えらい我慢したなぁ…と思います。


常識を破るということは、なにも法律やモラルに反する行動をとるということではありません。

業界では一般的なルールや習慣という枠を疑うことが重要です。

一つの経営に長く携わっていると、必然的に「暗黙のルール」とも言える、常識、既成概念に従うようになります。

確かに、意思決定上で役に立ちますし、考える時間が少なくてすむので、効率が上がります。

しかし、既成概念にとらわれすぎると、自分自身が既成概念にとらわれていることすら忘れてしまいます。

これらが本来稼げるはずの利益を妨げているかもしれません。

今年もあと1ヶ月、来年に向けて一度常識を疑ってみると、新しい発見があるかもしれません。