コラム『所長の眼鏡』

5,600万円のマグロと1貫の値段2012.09.01

 

マグロ

今年の築地市場における新春初競りで、驚くべきニュースが流れました。

青森県大間産で2m18cm、268kgのクロマグロが、昨年の最高値を2,400 万円上回る5,649 万円の史上最高値(1 キロ当たり21 万円)で、寿司チェーン店「すしざんまい」により落札されたのです。

関西に店舗がないので馴染みがないですが、このようなマンションが買えるような高値で落札し、果たして採算がとれるのでしょうか?

 

あるテレビ番組で50kg のマグロをスタジオで実際に握ってみた実験によると、2,321 貫だったようです。

マグロは内臓などを取り出して、全体の約6割は食べられるそうなので、50kg×60%÷2,321 貫=13gが大体1貫の重さとなります。

そこで、今回最高値で落札されたクロマグロに当てはめると、268kg×60%÷13g=12,300 貫作れるという計算になります。

したがって、1 貫は5,649 万円÷12,300 貫=4,592 円になります。

この「すしざんまい」では、1 貫当たり大トロとあぶりトロを418 円、中トロ313 円で提供し、チェーン店全体で1 日ももたないうちになくなってしまったようです。

原価計算では、これ以外にシャリの原価、人件費、家賃、その他の経費が掛かりますから、採算度外視だったのが分かります。

「銀座 九兵衛」は高級店で有名ですが、中トロの握りが1 貫2,000 円ぐらいだそうで、それでも採算がとれているのか不思議です。

 

さて、一方のマグロを釣った漁師のもとにはいくら入るのでしょうか?…

大体落札価格の約8割が入るそうで、今回の場合、5,649 万円×80%=4,519 万円が漁師の収入になるようです。

ただ、船の燃料費は馬鹿にならず、釣れない日があることを考えると、今回の最高値のマグロを釣った漁師は、宝くじに当たったようなものです。

ある意味、夢のある仕事かもしれませんが、マグロ漁の漁師の仕事というのは大変だと思います。

 

青森県大間で、すでに61 歳という年齢にもかかわらず、トップレベルの水揚げを誇る「山崎倉さん」という怪物がいます。

1 週間に1 本釣れれば万々歳。何か月も釣れないこともザラというマグロ漁。

今では神様といわれる山崎さんもかつて、「110 日間にも渡って1 頭も釣れない」という生き地獄を味わったそうです。

周りは釣れているのに、自分だけ釣れない。家族を路頭に迷わせてしまう不安。

2 度と釣れないのではないかという恐怖。

そういった感情に押し潰されそうになりながらも、必死でマグロを追いかけ続けたのです。


そして111 日目。


ついに、山崎さんは地獄の日々から解放されました。

釣れなければ無一文。釣れればいきなり大儲け。

そんなバクチのようなマグロ漁において大事なことは、「あらゆることを余念なくやること」と山崎さんは仰っています。

一発逆転のようなものを期待するのではなく、当たり前とも思われるひとつひとつの仕事をきっちり丁寧に行うこと。

日々の技術や道具の改良はもちろん、しけの日でも出られるときは必ず沖に出て漁をする。

大しけで漁に出られないときは、船の点検に精を出す。そして、天命を待つ。

あらがいようのない自然相手だからこそ、自分のできる範囲をやり尽くすそうです。

 

一本の電話、一本のメール、1 件の打ち合わせ、どんな仕事でもひとつひとつの仕事をきっちりと積み重ねることが、結局は成功への一番の近道かもしれません。