コラム『所長の眼鏡』

選択物語2012.11.01

 

「選択物語」という童話をご存じですか?

あるところに旅人がいました。

旅人はお城を探して森の中を歩いていましたが、途中、分岐点がありました。

右の道と、左の道、どちらに行こうか。散々迷った挙句、旅人は右に決めたのです。

意気揚々と右の道を歩き始めた旅人。

最初は元気いっぱいでしたが、道の脇から蛇が出てきたり、突然、熊に襲われたり、大切な水筒を落としてしまったり…。

沢山のハプニングに見舞われて、旅人はすっかり落ち込んでしまいました。

そして、あの分岐点のことを回想したのです。

「ああ、あの時左の道に行っていれば…」

きっと、美しい花畑が広がっていて、珍しい木の実や、美味しい水が沸き出ずる湖があって、かわいい動物たち が次々に現れてお城まで道案内をしてくれたことだろう…。

きっと、左の道こそお城に続く道だったのに、自分は何をやっているんだ。。。

右の道を選んでし まったことの後悔と、左の道への膨らみ続ける妄想で、頭の中は左の道のことばかり考えていました。

結局、旅人はあの分岐点まで戻ることにし、「今度は間違いない」と、自信満々で左の道を進んで行きました。


さて、どうなったでしょうか。。。


旅人は左の道を歩いている途中で恐ろしい怪物に食べられてしまいました。

そう…左の道はお城ではなく、怪物たちのすみかに続いていたのです。

お城に続いていたのは、最初に旅人が選んだ右の道でした。

そして、旅人が右の道を諦めた地点は、なんと、お城のすぐ目の前だったのです。

 

自分でこの道を行くと決めたのに、その道すがら嫌なことに見舞われたからといって、その道を「間違った選択」だと思い、脳内で作り上げた「他の未来」に期待するのは、現実逃避以外の何物でもありません。

成功した人に限って、「根性が甘いだけで、自分の選択はベストだ。

そう信じれば、どんな道でもベストになる!」なんて語ったりもします。

しかし、ビジネスの世界においては、選択が間違っているケースもたくさんあります。


そのときに最も重要な道標が「会計」です。

 

先日、東京都知事の辞職会見で、石原慎太郎氏は

「国には財務諸表がない!すなわちバランスシートがないんですよ!まずそこから変えないといけない」

と仰っていました。

また、JAL を再建した稲盛和夫氏は「日航は八百屋も経営できない」と痛烈な経営批判をしました。

就任間もない頃、役員が「航空会社は安全が第一。利益を追うのは罪悪のようなものです」と、

稲盛氏は「利益が出ないと、安全の投資もできないじゃないか!」と色を成して反論し、

「まず経営陣の意識改革が必要だ」と痛感したそうです。

当時、日航の月次決算には2~3 か月かかったそうで、対策も打てないもどかしさがあったそうです。

そんな経営陣の意識を変えたのは、やはり「数字」でした。

植木新社長は、「月次の利益と 実績と見通し」を確認し、「毎月の実績が計画を上回る」。そうすることによって「見通しを上方修正していく」。

「それが楽しくて、楽しくて、数字を追うことを教えてもらったのが大きかった」と、稲盛氏に批判的だった役員が、最も数字に敏感になっていたのです。

 

数字は正直に会社の「物語」を伝えてくれます。

何度となく修羅場を潜り抜けた経営者の中には、自らの経験やカンを頼りに、自信を持った方も少なくありません。

しかし、判断に迷った時、数字が語りかけてくることもあるのです。