コラム『所長の眼鏡』

528億円 高級アイスの販売戦略2023.09.01

 

暑い日が続きますが、こうも暑いとアイスが食べたくなります。

「高級アイス」と言えばハーゲンダッツを思い浮かべる人も多いかと思いますが、2021年12月には、528億円という過去最高の売上を叩き出しました。

そんなハーゲンダッツですが、最初から経営がうまくいっていたわけではありません。

 

ハーゲンダッツが販売される、30年ほど前、創設者のルーベン氏は、母と共に叔父の経営するアイス会社で働いていました。

そして数年後、貯めた資金で独立し、母がオーナーとなって、セネター・フローズン・プロダクトというアイス会社を設立。

その後20年にわたって家業を大きくしていきました。

 

ところが、消費者がスーパーマーケットを利用するようになり、アイスの棚は大手の「安くて高品質」なアイスに独占されていきます。

セネターが作るアイスでは、価格も品質も大手に太刀打ちできないと悟ったルーベン氏は、乳脂肪の多い、超高品質のアイスクリームを作ることを提案。

これが、お馴染みのハーゲンダッツの始まりです。

ルーベン氏は大手に負けないブランドを作るために、「スーパープレミアム・アイスクリーム」という新たなニッチ市場を生み出しました。

原材料にこだわり抜き、チョコレートはベルギー産、コーヒーはコロンビア産を使用していました。

ただしその分、値も張っていました。

当時は1つ50円が相場でしたが、ハーゲンダッツは1つ75円。1.5倍だったのです。

 

それにも関わらず、発売から約10年後には、全米に販路を拡大。その数年後には、ショップ1号店を出店し、直営店は7年間で50カ国900店舗にまで拡大していったのです。

 

一体なぜこんなに売れたのでしょうか?

原材料にこだわっているので、もちろん味は美味しいのですが、買うときには味は分からないですよね。

むしろ、1.5倍高いと少し躊躇してしまうかもしれません。 

 

それは、ネーミングの力です。ルーベン氏は高級感を出すために名前にこだわりました。

娘さんによると、当時、夜遅くにキッチンのテーブルで、色々な名前を声に出して、響きを探っていたそうです。

そして完成したのが「Häagen-Dazs」。

高品質なミルクをイメージさせる北欧の都市“コペンハーゲン“と、それに響きのあう“ダッツ“という言葉(意味はありません)を組み合わせました。

完全な造語ですが、伝統的な、外国風のイメージを醸し出しました。

 

例えば、フランスのパイ菓子で「ガレット・デ・ロワ」というのがあるのですが、なんだか高級でおしゃれなイメージを想像しませんか?

同じように、アメリカの消費者にとっても、ハーゲンダッツは外国っぽくて、なんだか高級感のあるオシャレなネーミングだったのです。

ルーベン氏は、Häagen-Dazsという名前で、アメリカの消費者に高級アイスというポジショニングを植え付けました。そのため、1.5倍の価格であっても売れたというわけです。

 

実は、外国風のネーミングにする、という発想の効果は研究でも立証されています。

それによると、消費者の約4分の1が、製品の原産国情報に基づいて購入を決めているそうです。

つまり、ネーミングで連想されるものによって、商品のイメージもガラリと変わるということです。

適当に決めてはいけませんね。暑いのでハーゲンダッツを食べながら考えると、ネーミングのヒントがもらえるかもしれませんね。