コラム『所長の眼鏡』

ライト兄弟の不安定からの発想2011.09.01

 

震災後、電力不足、円高、株安、首相の交代…

と、これ以上の不安定要素があるのかというぐらい、今の日本は不安定です。

こんな今だからこそ、おススメしたい本があります。

『不安定からの発想』佐貫亦男著、講談社学術文庫。

この本は「なぜライト兄弟は空を飛べたのか――」その秘密が書かれています。

秘密とはいっても、答えはその本のオビに書かれていますので、ここでご紹介したいと思います。

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1903年(明治36年)にライト兄弟がはじめて有人動力飛行に成功するまで、数多くの先駆者たちが失敗を重ね、中には命を落とした人もいます。

私はこの本を読むまで、ライト兄弟がはじめて空を飛んだことぐらいは知っていましたが、それまでに多くの人がチャレンジし、失敗していたとは知りませんでした。


安定とはなんとも響きのよい言葉です。

安定した生活、安定した会社…、ところが現実の世界は全然安定していません。

著者は、ライト兄弟の飛行実験を通じて、安定とは何か?

現代社会を生きる人々に不安定な時代を生き抜く逆転の発想を説いています。


では、なぜライト兄弟は成功したのかというと、彼らはそれまで固く信じられていた安定の神話を破ったからです。

ライト兄弟以前の先駆者たちは、三次元の空間を飛ぶ飛行機は、それ自体が安定したものでなければならないという観念に挑戦しました。

しかし、ライト兄弟の最初の有人動力飛行機フライヤー1号は、安定どころか、放置すれば墜落する機体だったのです。

それでなぜ墜落しなかったのか!?

理由はあきれるほど簡単です。


彼らが操縦したからです。


空が不安定なものであることを受け入れ、過度な安定に身を置かず、自らが操縦桿を握ることで安定を生み出すのだと、ここにライト兄弟の思想、すなわち、不安定の発想があります。


彼らはノースカロライナ州の砂丘で、寒風に吹かれながら、まだエンジンをつけないグライダーで飛行に励みます。

もちろん、墜落も、破壊もありえましたが、そのたびに命を落としたのではたまらないので砂丘で飛び、能率よく飛行回数を積み重ねるために、アメリカ有数の強風地である海岸を選んだのです。

それまでの飛行パイオニアたちは、墜落を恐れるあまり、十分に安定をもたせた飛行機の実現に専念しました。

もちろん、それ自体は悪いことではないと思います。

しかし、どっぷりと安定の中へ埋没しようとする思想そのものが悪をはらんでいたのです。

すなわち、安定な飛行機は手放しでもある程度は飛びますが、激しい変動に出会ったら、たちまち安定の限界を超えてしまいます。

そのときにどうするか!?


著者は「我々の周囲はいまや不安定に満ち溢れている。

我々は人生を、また社会を、手放し飛行で飛んでいるのではない。

……人生または社会が安定であることは望ましいが、たとえ不安定であっても希望はある。

むしろ、不安定な人生や社会を乗りきろうとするときこそ、積極的に変革しやすいかもしれない」

と述べています。

航空工学に興味がある方はもちろん、この本に書かれている突風、暴風、雷雨、濃霧、暗黒、吹雪、洋上、山岳、砂漠とあらゆる苦難を乗り越えたライト兄弟の努力は、経営に大きなヒントを与えてくれます。